復員
縞田みやぎ

路面
濡れたように凍っている

ラピュタの兵隊のロボットみたいだね
あの プロパンのやつ
あたまのところが よく似てるよね

君はそんな風にして
ハンドルを離さず あごで
前のトラックをさしてみせる
なるほど 凍った道に 小刻みに揺れて
じんじんと 戦争に行くようにも見えるね
しんどい働きに行って ため息ついて
いっしょくたの帰宅にも見えるよ

午前6時半 前
川からのもやは 降るような霜と
かたいかたい路面の摩擦になった
僕たちは車内で まだ
雪を払ったてのひらが てのひらがしびれるので
せめて足の間にはさみこんで 背を丸めて
互いに手を取り合うこともない

もし 連中が
戦争に行くなら ちょっと かっこうがいいね
実際 立ちんぼうだから まるきりだけど
ああ しんどいね
外にじっと立ちんぼうしてるのは 寒いだろうね
ひどいね
戦争に行くなら ちょっとおもしろかったけど
ねえ ちょっと おもしろかったけどね

発想として さ
僕はそんな風にして

もやの白さ

車内の暖房は ラジオの音と話し声を 押して
じんじんと ガラスを透明にしていく
僕は両手を握ったり もみあわせたりして
指先で空気をかいて あたためている
君はちょっとだけ身じろぎをして
ひざ掛けの位置を直した

ラピュタのあの やつは
花を 鳥の巣を見て回ったりして いきて
でもいつかは戦争に行く 兵隊のロボットだったよ
プロパンのあの人たちは
立ったまんま なんにもしない
なんにもしないで じいっと 
じいっと 中身が抜けていって
からん からんって かたいまんま からっぽになって
へこまないけど あんな立派だけど
なかみは からん からん で
今日はこんなに寒くて 寒くって
でも戦争に行かない
でも どこにも 戦争に行かない

寒いね
今日は
今日は 今朝は とても 寒いね
寒いね

もう ハンドルにかかる息は透明になった

僕は君の手を 握りたかったのだけど
今朝は
こんな今朝は特に 平和な運転が必要なので と
もう一度 足の間に両手を挟んだ

川からの もやの白さ

路面
濡れたように凍っている


自由詩 復員 Copyright 縞田みやぎ 2007-12-27 00:38:48
notebook Home 戻る  過去 未来