人形
AKiHiCo

私は壊れた人形
誰に思われるでもなく
忘れられて箱に仕舞われた

確か主人が名前をくれた筈
だけど思い出せない
螺子がくらくらと緩んでゆく

元々欠品だった私を
主人はそれでも構わないと
私を抱き上げた
初めて感じる体温
何とも言えない
安堵感に包まれたのを

この壊れた人形でも
忘れない事だってある
主人は忘れてしまっていても
私は覚えている
きこきこぎしぎしきぃこきこ

腕を伸ばしたら蓋にぶつかった
誰かの声がする

主人の声 それから
新しい人形達だろうか
楽しそうな声が弾んでいる

唇を開けてみたものの
言葉は何も出てこず
代わりに涙が流れた

主人、覚えてますか
初めて私を抱いた時の事
連れて帰ってもらってからは
毎日毎日髪を結ってもらい
ベットで横になるのが好きでした
私は幸せでした

私は型番も随分古い人形
今はろくに歩く事も出来ない
沢山の記憶も落とした
主人は今の新型の人形と居るのが
幸せだと思うから

本当にいらなくなる日まで
箱の中で大人しくして
その日が来たら
迷わず




自由詩 人形 Copyright AKiHiCo 2007-12-25 01:25:38
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