物差し
佐々木妖精

16年経って動かなくなった壁の
パチンコ屋の景品の
時計の匂いがする

雪が屋根を揺する日に
凍えた足を挟んでくれた
シワシワの両脚の
安心の匂いがする

肝臓をやられ
病室で孫の名前を忘れた
じいさんの
匂いがする

南方でマラリアに犯され
湯船で春日八郎を歌い
盲腸の痕を
鉄砲でできたヘソ二つとうそぶいた
じいさんの
香り

それは
時代が
悪かったのだから
いつの間にか追悼され
慰安婦は
その犠牲者であり
そんな時代もあったねと
中島みゆきが歌う30年後の時代は
再びじいさんに
換気扇の下で
斥侯を強いる

ストローをくわえ
線香代わりに
青いハイライトを
くゆらせていると
こんな時代のマルクスが
宗教は煙草であると言い出し
バファリンが悪だとは
言わず
小学校でもらった私の
ひらがなの名前を測り
60センチメートルの物差しを
指差して笑う

健康に生きて
どうするつもりなの
の?

聞いたら追い出される
のだろうか





そこへはもういけない
から
どうか
もう
かわらないでくれ


自由詩 物差し Copyright 佐々木妖精 2007-12-22 21:23:58
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