ゴーシュ
mizu K



空の鋭角を切りとるように
にじみ出した切りとられた
青い空のカメラ
オブスキュラ
青い空の向こうの黒い宇宙

果ても見て
見ぬふりをして過ごした時間
時間のすきまに
おとずれた空白の薄明のあわい
時間のすきまに
ふとふみこんで足をとられた
そんなとき
彼の人の名を呼ぶ

ゴーシュ


黒いくらい森の
緑黒い葉うらの日ざし
ささぬ森の奥深く
その黒い森の中心から
くろい葉とくろい枝にかこまれて見えない
空のことをおもう
そしてまた
名を呼ぶ
彼の人の名を

ゴーシュ

ほの暗き水の底のよどみから
ゆっくりとかま首あげてゆらゆらぐ
おりのように沈んだ水の底が
ゆらゆらぐ、ゆらゆらぐ
ひとりとして帰ってこなかった
ほの暗き水の底のよどみ
数えきれぬほどの年月を堆積した
水の底のよどみから

ゆっくりとかま首あげてゆらゆらぐ
その姿
祈りもて、ささげよ

ゴーシュ

かすみて弥生またその日
春かすみてようやくその気配
おぼろな影が一歩一歩
そのかすみにまぎれておぼろな影が
一歩一歩近づく
おそれよ、おそれよ
異形のものの、その姿
もう一度また
彼の人の名を、祈りもて

ゴーシュ

組紐に結いあわせもう
ほどかるることなし
インディオのキープのように
その結び目に意味をもたせ
その空を
鋭角に切り取り
切り取られることに意味をもたせ
その空を

また
おそれよ、おそれよ
そしてまた
祈りもて、ささげよ
また奏でよ

ゴーシュ



自由詩 ゴーシュ Copyright mizu K 2007-12-20 22:59:15
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