おひさま
しろう


ステンのやかんで湯を沸かし
凍った車の視界をひらく午前七時
柔らかさを帯びた空気の向こうに

こっぽり

と浮かんでいるあれは
マリーゴールドの豊潤
あるいは熟れた蜜柑に似た



明け方の津波のような悪夢は
フロントガラスの霜と溶かして
湿り気で霞んだ薄青のあたりに

こっぽり

と浮かんでいるあれは
鮮やかな卵の黄身の濃密
あるいはカーブミラーに似た




 くじらの背中のアスファルト
 夜の駆ける道筋は
 対向車のハイビームに目をやられて
 しばしば身体を見失ってしまう


 いつだってやさしいものから
 記憶のミルクを零していくから
 大事なものたちの名を忘れないように
 つぶやく

 呼ばなきゃ

 名を



ああ
思い出した

レッドチェダーが融解し
夕張メロンの果肉が
透明に燃えている
まる


あれは


おひさま


と、
呼ぶのだ




  そのいろ

     こころ

       あたため  




自由詩 おひさま Copyright しろう 2007-12-17 01:18:37
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