騾馬/蜘蛛/鬼/ピーカフ
鈴木

 昨晩は錯乱して
 まるで
 密林で春をひさぐ女たちの
 割烹着に付いたシミのよう
 
 木漏れ日の夜を塞ぐバスクが
 なりをひそめ
 フランス調の哀歌が響くとき
 騾馬に詩歌をつまびらくエルフこちら向き
 
 毛づやよいか
 遥か彼方に血潮ふりまく朝か

 ミクロを通して聞こえる声が波濤になり
 五等星を飲み込んだ

 *

 愛と心臓のふるさとを追い
 辿り着きたるは盲目のタランチュラ
 穏当な二重まぶた潰して猜疑食え

 千年経ってバラバラになった
 毒牙
 見る影なく
 それは一本のしらたき
 さぶらうは液体窒素のような
 地層のぬくもり

(にべもなく包まれて
 あのクモはたぶん
 蓄膿症
 だったのだろうね)

 *

 しゃがんでハーネス見つけた鬼
 体長二センチ、赤く、ツノ一つ、棍棒一本
 少しアフロ、父のにおい、甲高い声
 なにする、なにするですかという
 ハーネス、齢二歳、青い瞳の男の子
 鬼を潰して食う、歯ごたえよく、コクがあり
 少し公園の砂に似ている
 せまる朝餉の時
 母の手ずから作った

 *

 ピーカフは
 ブリキを噛んで枯れた
 餞別にもらったムグラを編んで
 褥を作ろう

 アカネ科の多年草なんです
 細長い葉が輪生します
 
 おぼつかない手で
 揉む根の吸い上げる水が
 汚わいを含んで
 それはピーカフ
 雨がさびを流さないうちに
 なめる
 ひそやかな青ざめた甘さを
 砕く紐と
 季節のおとずれが
 次はあなたを解き明かそうとしています


自由詩  騾馬/蜘蛛/鬼/ピーカフ Copyright 鈴木 2007-12-14 00:43:05
notebook Home 戻る  過去 未来