腐乱同然、レディゴー・ベイビー
ホロウ・シカエルボク




照明を落としてフロアーに転がり
腐乱死体の真似をした
ずるり、と
眼球が零れ落ちたときには
なんだか満たされた感じがしたぜ
そのまま灰になり
真っ白い骨格になったころ
携帯に仕込んだアラームが鳴り出す、ああ、そうだ
今日は誰かに誘われていたんだった、でも
すぐには思い出せない程度の相手だ
気にするようなことでもない、電話が鳴る、少し早いんだけど―
『少し早いんだけどさ、もう、みんな集まってるからさ…早めに出ておいでよ』
ああ、悪いねと俺は言う『仕事が長引きそうなんだ―行けそうだったら連絡するよ』
判ったと言ってそいつは電話を切る
俺のことを信じているかどうかはどうでもいい
俺がそこに行かないことはもう決まってる
さて
もう腐るわけにはいかなくなった
再生するには安っぽいインスタントコーヒーだ、湯を沸かせ、ソウルサヴァイバー
粉は多めに、嫌になるくらい多めに
ブラジル爆弾の威圧が脳髄まで届けば
そうさ、クタクタの身体だってどうにか動くはずさ
ピンポーン
玄関のベルが鳴る、畜生
今日はなんだかよく鳴る日だぜ
ドアを開けると宅急便だった、タワー・レコードへ注文した何枚かのディスク
タイムラグがあると
本当に欲しかったものなのかどうかしっくりこない―時がある
欲望は鮮度が全てなのかもしれない
捨てられないけど関わりもしない、そんな品物が増える
いつかはっきりとその意味に気づくときに
積み上げられたさまざまなものに俺は脅迫されるのだろう、聞きなよ、呆けたもの
怯えるのに誰かの目なんか本当は必要ないんだぜ
ありがとうございました、と宅急便のアンちゃんは帰る
爽やかな、いい笑顔だ―何も考えていない―運動部特有の能天気さ
あいつは死ぬまで幸せに暮らすことが出来るだろう
揺るがない自分を持たなかったことに俺は感謝した、苦労は多いが
得るものはきっと倍かそのずっと以上だ
包装を解いたが聴く気にはなれず
TVをつけたら長ったらしいだけのバラエティ特番
明日も目覚ましに叩き起こされる運命にあるやつが
4時間も画面に張り付くことが出来ると思っているのか?―ラジオ代わりにつけておくことにした
ワッハッハッハ、ドワドワ♪チョットマッテヨ、ソンナノオカシイヨ!ワッハッハッハッ
三十分も聞いていると頭がおかしくなりそうな気がして
リモコンを探したが見つからなかった
仕方がないので本体まで這った
テレビにコントロールされているみたいで胸糞悪い(リモコンはテレビ台の端に落ちていた―離れたところからテレビを操作するためにあるものがどうしてテレビのすぐそばにあるのかどれだけ考えても判らなかった)
FMをつけてみた、AMは演歌が流れるから―格好だけロックのポップス・バンドの歌ばかり
それが圧倒的な基準となって電波を占領する
結局CDを流すことにした
野太いエレキの音なんか、最近テレビじゃ聞こえなくなったな
昔は少なくとも誰かは居てくれたのに
飼い犬が首輪の辺りを引っ掻いているようなカッティングばかりさ
それが繊細さだとみんな考えてるんだ
限定されたスタイル、窒息しそうなロックンロール、お願いだからもう少し哲学とやらを捨ててくれ
俺はレポートが聴きたいわけじゃないんだ
クラシックだってみんなが言う
俺のコレクションをクラシックだって
古びないから聞いているだけなんだけど―情報化社会はそういうものみたい
当たり障りのないものばかりみんなが選び始めて
当たり障りのないものばかりが継承されてく―端末ひとつで世界と繋がれるのに
自分の庭以外は
目をやりもしないやつらばかり、コーヒーを飲み干す
アーハー、ロックンロールだ
シニカルでもフィジカルでも、まずは腰が振れなくちゃ
ブラジル爆弾が脳髄を駆逐する、軽く背伸びでもして
明日駆逐されるための準備を整えることにしよう




自由詩 腐乱同然、レディゴー・ベイビー Copyright ホロウ・シカエルボク 2007-12-13 20:49:58
notebook Home 戻る  過去 未来