パイ
木屋 亞万
パイを焼き上げた
外はこんがりたぬきいろ
中は湿ったきつねいろ
眺めて味を想像する時
食べてる時より良い顔
眼には優しさの炎
口元は甘い微笑み
恍惚に濡れた午後
煙を立てないオーブンの
ストレスを吐き出した曇り空
君は遅めの昼休み
屋上なんかでもくもくと
雲に煙を混ぜてる頃か
紅茶のポットの湯気に
福音を聴いたような気がして
冬に染まった液体を注ぐ
時間をかけて完成した
こうばしい表面に目をやり
淡白なカップを傾ける
君だって休憩終わりのコーヒーを
仕事へ戻るきっかけにして
経済的に働き続けているのだろう
疲れた身体を刺激しすぎて
骨組みが壊れないように
家では硬直した心を解こう
甘く重なるパイを焼いて
帰りを待ってるから
少しくらいしんなりして
でもその方が
良いに決まってる