暗示は歩いてゆく
塔野夏子

暗示は歩いてゆく
眠りをめぐる回廊を
重ねられた便箋のあいだを
どこかためらいがちな
静かな足どりで

誰ひとり知り合いのないような
それでいて誰もに挨拶をしているような身ぶりで
暗示は歩いてゆく
ハミングの輪郭を
はがれたポスターの裏側を

中空の湖のほとりを
暗示は歩いてゆく
どんな表情も知り尽くしているような
それでいて何ひとつ知らないような顔つきで
砂時計の内側を

暦からこぼれ落ちた夜を
秘められた眼差しを
どこかためらいがちな
静かな けれど一歩一歩波紋する足どりで
暗示は歩いてゆく

華やかな空虚に彩られた街路を
透明な回転木馬のまわりを
季節の結び目を
暗示は歩いてゆく
おぼろな矢印の影を曳いて





自由詩 暗示は歩いてゆく Copyright 塔野夏子 2007-12-11 21:39:41
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