響け
松本 卓也

誰かに聞こえるように呟いていみても
何の解決にもなりゃしないことは
とうに分ってるつもりだけれど

馬鹿にされても笑うフリ
傷つけられても泣くフリ
辱められても怒るフリ
形作られた実像が侵食する
ちっぽけな自分らしさだけを頼りに

太陽が眩しい事
雲が真白い事
風が心地よい事
ご飯が美味しい事
納得しながら生きている

もう三十だぜって自嘲する
誰かを支える事すら放棄した
味気ない人生に見切りをつけて
ひたすらに現在を積み重ねる

果たして価値に目を背け
笑う事が出来ると思われている皮肉を
どれだけ認めることが出来るだろう

囁く空想が写した自分らしさが
どれだけ雄弁に今を否定したとしても
誰かの網膜に映し出された道化こそ
偽らざる事実でしかない

誰もが理想的自己に託した望みは
重ねた年月に削れて消え去るのみ
真実は脳の中で新たな妄想を築き上げ
いつしか忘れ行く託された未来

何者にもなれなかった
自分にさえなれなかった
後悔する履歴を振り返りながら
零れていく愚痴を見捨てているだけで

逃げ出す算段を不理解に理由付けし
最低最弱の逃げ腰でしかなくとも
自分は誰にでも負けなかったと言ってのける
恥知らずにだけはなりたくない

悩みが無くて良いなと笑われているだけとして
敗北を重ね見捨てられ続けた生き様の中で
共有する事の出来ぬ財産の中に逃げ道を産まない
自分自身が少しだけ誇らしい時

究極の負け犬が叫ぶ
遠吠えよ、空に響け



自由詩 響け Copyright 松本 卓也 2007-12-06 23:07:06
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