二番線ペーソス
atsuchan69

昨日、往きすぎた駅――

マイホームは地図に載ってない。 )))

疲れ果てた大勢の人たちが、
十二月の憂鬱なプラットホームで
蜜柑の載った赤外線炬燵と
逃げ場のない積みあげた日々の
さすがに奴隷としか言いようがない
身に染みた遺伝的劣等の、
今日も辛さを和らげてくれる
その悍(おぞ)ましき六畳間を待つ

どこか惚けた家族を似せた、
判で押したテレビドラマとは裏腹の
酔いに任せて会社帰りのホテルで契った
すこぶる新しい、美しくも忌まわしい女と
たぶん一生涯の団欒を求めて

下り坂。――既に僕はもう、
この家の主(あるじ)などではなかった

そういう安直な話なら、
高架下の古本屋で
まるでサルトルの全集を売るみたいに
給料日まえの新月の夜、
悪魔と取引きをしたら良かった。

子供たちが云う、
パパはどうしていつも怖い顔なの?
僕は不潔な背広を脱ぎながら
おまえたちの生活を守るために・・・・
と、云いかけてやめる、
パパは本当は怖くなんかないさ
でも、今日も大変な仕事で
また人を裏切ったなんてとても云えない

「今月、蟹を食べに行こう!

いつもはいない、ママも
そのときは必ず来るにきまってる
みんなで貸切の温泉に入って、
家族水入らずの団欒みたいにさ
インターネットで各安のツアーを探して
おまえたちの本当のママと、
厳冬の日本海へ蟹を食べに行こう

そのあと暫くは
どうかパパを、
お願いだから探さないでほしい
二番線プラットホームから、
また遠い海へ釣りに行く

たぶん正月までには戻るから

――許してくれ。


自由詩 二番線ペーソス Copyright atsuchan69 2007-12-04 00:59:23
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