奥さん、俺はあんたを本気で怖がらせたかった
紀ノ川つかさ
俺がまだ子供の頃
あんたの息子達と仲がよくて
近所の子供達とも一緒になって
よく遊んだものさ
ある日、俺はあんたの家で
いつもの連中と一緒に
お化け屋敷を作ったんだ
窓をふさいで、部屋を暗くして
来た人をどう歩かせて
そして誰がどんな
お化けをやるのか決めて
圧巻なのは大きなクマの
ぬいぐるみがあって
そいつは目が取れていたから
背後に隠れて声を出すんだ
目を返せ
僕の目を返せ……ってね
そして、お化け屋敷は完成し
俺は奥さん、あんたを呼びに行ったよ
そしてあんたは、微笑しつつ入ってきた
今に驚くぞ、震え上がるぞ
ところが仲間達ときたら
俺の言ったことなどてんで聞かず
わあわあきゃあきゃあ叫んで
「ママ」にむしゃぶりついていったんだ
あんたはもちろん怖がりもせず
笑って言うのだ
「よくできたね、がんばったね
お化け屋敷、とってもおもしろいわよ」
奥さん、俺は
あんたを本気で怖がらせたかった
いつもメガネなんかかけて
頭よさそうで
穏やかに笑っているあんたが
怯える様が見たかったんだ
でもクソガキどもが
みんなぶち壊しにしやがって
あんたを大いに喜ばせたさ
あんたはそして、俺達の
頭を撫でて、褒めてくれたんだ
俺はあんたに
そうされるためにお化け屋敷を
作ったんじゃない
あんたに恐れてほしかった
あんたに逃げてほしかった
俺はあんたを
コントロールしたかったんだ
ふざけたガキども
分かってないガキども
憎たらしいだけのガキども
子供の頃の
楽しい想い出でもなんでもない
俺は今でもあの時の
悔しさを忘れてはいないんだ
お前達みたいなのが大人になって
今の世の中を作ったんだろう
だから俺は
世の中が嫌いなんだ