必要
佐々木妖精

人であるために必要な何かを落とした
それは必要なくなったので



沈みゆく太陽に
またねと手を振ること
飛び立つ力を失って地面でもがく蛾を
目で追いながら
ひょいとよけて歩くこと
缶コーヒーの温もりを
いつまでも感じていたくて
飲めないまま
気がついたら家に着いてしまい
やむを得ず冷蔵庫に
しまってしまうこと

無駄なことたくさん落とした
いま必要な物も落とすだろう
いつか路頭に迷い
のたれ死ぬだろう



ガソリンを入れるためだけに
ガソリンスタンドへ向かった

俺の生活には無駄がない
部屋には布団しかないし
学校で覚えたことなどほぼ忘れ
仕事に必要なことしか頭にない
マラルメランボオヴェルレーヌ
スチャダラオザケンカヒミカリィ
彼らのうたもみんな忘れた

無駄なことをたくさん落とした
俺はきっと人殺しになる
悲しい人間とそう評された俺は



ガス屋へ続く無駄のない順路で
小学生が無駄に群れて歩いてる
無駄な勉強の後
無駄口を叩きながら
無駄な駆け足
友達という無駄な相手と
無駄に笑い
無駄に手を上げて横断歩道を横切る気だ

彼らを眺める俺の足は
無駄に強くブレーキを踏み続け
顔には無駄な微笑みが
浮かんでいた



まだ生きていけるように思えた


自由詩 必要 Copyright 佐々木妖精 2007-11-25 02:13:29
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