かぜのいれもの、のなかで
たりぽん(大理 奔)
キッチンから窓の外が見える
小高い山の放牧場には三機の風力発電機があって
巨大な三つ葉の風車が
/ゆっくりでもなく、はやくでもなく/回っている
この街に近づく冬はいつも遠雷の足音
漏斗で水をまくように道路を濡らしては
おそろしい響きで秋を威嚇する
あんまり風車がくるくるまわるということは
そしてそれが街から見えるということは
海から南に向かう冷たい風、雲を流しながら
/くらくもなく、あかるくもなく/ひかるそら
北風は、窓を震わす風とつながっているのだろうかと
ベランダにでて頬の温度にきいてみる
墨絵のようにマーブルな空のそれらをみあげる
ぐるぐると、雨雲にあわせて視界がまわる
そらが、からっぽの大きな入れ物だと知らされ
目の前を流されていく鳥の影のように
/ふこうでもなく、しあわせでもなく/ぼくら
冒険はいつでも危険だらけだ
轍の谷底で、車輪を避けながらため息をつく時
未踏の淵で、谷底を見下ろし立ち竦む時
おそろしい遠雷を背中で冬と聞きながら
まわる、三つ葉のメトロノーム
この胸の小さな温度と
/ゆっくりでもなく、はやくでもなく/鼓動に
冒険はいつでもはじまるのだろう
そらの、世界の広さを知るためではなく
自分が生きているという姿を乗り越えるための