かぜのいれもの、のなかで
たりぽん(大理 奔)

   キッチンから窓の外が見える
   小高い山の放牧場には三機の風力発電機があって
   巨大な三つ葉の風車が
   /ゆっくりでもなく、はやくでもなく/回っている

この街に近づく冬はいつも遠雷の足音
漏斗じょうごで水をまくように道路を濡らしては
おそろしい響きで秋を威嚇する

   あんまり風車がくるくるまわるということは
   そしてそれが街から見えるということは
   海から南に向かう冷たい風、雲を流しながら
   /くらくもなく、あかるくもなく/ひかるそら

北風は、窓を震わす風とつながっているのだろうかと
ベランダにでて頬の温度にきいてみる
墨絵のようにマーブルな空のそれらをみあげる

   ぐるぐると、雨雲にあわせて視界がまわる
   そらが、からっぽの大きな入れ物だと知らされ
   目の前を流されていく鳥の影のように
   /ふこうでもなく、しあわせでもなく/ぼくら

冒険はいつでも危険だらけだ
わだちの谷底で、車輪を避けながらため息をつく時
未踏の淵で、谷底を見下ろし立ちすくむ時

   おそろしい遠雷を背中で冬と聞きながら
   まわる、三つ葉のメトロノーム
   この胸の小さな温度と
   /ゆっくりでもなく、はやくでもなく/鼓動に

冒険はいつでもはじまるのだろう
そらの、世界の広さを知るためではなく
自分が生きているという姿を乗り越えるための



自由詩 かぜのいれもの、のなかで Copyright たりぽん(大理 奔) 2007-11-21 14:51:09
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