晩秋 光と影
草野春心
あの晩秋の午後
我々を包んだ光の粒子
その中に既に死はひそみ
きみをとらえていた
生と死のキメラ体
それが
命
*
きみの髪のにおいや
神経質な足音
折れてしまいそうな頸
そう
きみが死んだ
たくさんの匿名性の中で
きみの美しい名前が
静かに忘れ去られてゆく
それでもぼくは生きる
たくさんの存在と
いくつかの不在を胸に抱えて
*
休日の井の頭公園は大変な賑わいで
ぼくはたった一人で
陽の光に彩られた 晩秋の木々
かれらは本当に生きているのだろうか?
けれども木々は光を吸い込み
晩秋の風にゆれ
命の大事な部分だけを使って
そこに存在していた
きみが今どれほど幸福か気づいた
*
この晩秋の午後
ぼくだけを包む光の粒子
その中をぼくは歩いた
でもやがて
夕暮れに伸びたぼくの影が
木々の影と交わって……
そこでぼくは立ち止まっていた
いつまでも立ち止まっていた
自由詩
晩秋 光と影
Copyright
草野春心
2007-11-19 20:59:06
縦