ドアの向う側
恋月 ぴの

都会に住みはじめ一番変わったのは
靴が汚れなくなったこと
母に駅まで長靴持ってきてと頼んだのは
実家に帰った際の笑い話しとなったし
でこぼこ道に足をとられることもなくなった

色とりどりに舗装された歩道には
木枯らしの舞う余地など無く
街路樹からの落ち葉たちも
きまりわるそうに側溝の片隅で寄り添っている

お気に入りの靴たち
おすまし顔で靴入れに並んでいて
たまのお手入れは
ティッシュで軽く拭うだけ

そろそろブーツでもと靴入れのなか整理していると
お隣りさんから何かの物音聞こえた
どんなひとが住んでいるんだろう
雨傘が仲良く玄関先に立てかけてあったけど
そう言えば挨拶を交わしたことも
うしろ姿さえ見かけたことなかったような

きれいな靴と引き換えに失ったものへ
そこはかとない虚しさを感じてしまうけど
煩わしさから解き放たれた身軽さをも感じて
わたしの部屋だけがぽっかりと月夜にただよう

明日も雨降らないよね

夜更けの玄関先をこつこつ横切る音がして
顔の無い誰かがお隣さんのドアをノックした



自由詩 ドアの向う側 Copyright 恋月 ぴの 2007-11-16 23:54:06
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