ミッキーに会いに
とうどうせいら

夢を見た。


夢の国に行ったら神様はいなかったけど
ミッキーマウスがいた。
「みんなの人気者」なんて嫌いだったから
ディズニーランドで会っても
手なんか振ってやらないと思ってたけど
向こうからダッシュでやってきていきなりハグしてくれた。
あんな窒息するほど抱きしめられたことは
人間にもされたことなかったから
ふにゃふにゃになってしまった。
ミッキー恐るべし。
ミッキーはテレビで見るよりも優しい性格で
深く付き合うと激しい所もあった。
結構いい奴だった。
不覚にもかわいいとか思ってしまった。
初めてつないだミッキーの手はふかふかしてた。
最近悩みがあるらしい。
甘いものの食べ過ぎでお腹が出てきて
ダンスする時微妙にやばいらしい。
ミッキーマウスも大変なんだなと思った。
あのプロポーションは努力の賜物なわけだ。
なんか前より好きになった。


目が醒めたらミッキーがいなくなってた。

悲しくなった。

もう何にも食べたくない。
何にも作りたくない。
お砂糖のついたドーナツだけ死ぬまで食べていたいと思った。
思ったけどわたしは黙って
きちんとゆうべ煮込んだカレーを食べた。
夢の国は子供が行ってはいけない所だ。
子供は帰りたくないって駄々をこねるから。
大人だって夢は見る。
大人の夢はさようならって手を振れる。
行きたくなったらまたいつか行ける。


全て終わっていくけど何も終わらないことを知っているから。

いつだってミッキーはわたしを見ている。
カーテンの陰から
自動販売機の向こうから
満員列車の乗客になりすまし
食堂の厨房の奥でひっそりとうどんの湯切りをしながら
こちらを伺う。
だってミッキーは芸歴75年のエンターテイナーだ。
ほんとに泣きたい気分の時にだけ現れる。
サプライズタイムを耽々と狙っている。
夢の国は頑張っている大人のための場所。

午前中の光は冷たくて明るかった。
わたしは髪をまとめた。
ミッキーマウスにハグされたわたしは
鏡の中ですこし優しかった。

今日は床磨きから始めることにした。

蛇口をひねる。






自由詩 ミッキーに会いに Copyright とうどうせいら 2007-11-16 18:38:02
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