会話
たもつ

自転車はその肢体を空気の隅々まで伸ばし
僕らのささやかな会話は言葉を放棄して
水の海になってしまった
沖へとゆっくりこぎだして行く
すでに失ったペダルを懸命に踏みながら

陸のいたる所では子供たちが
椅子の脚を折り続けている
そうしていればいつの日か大人になれる
そんな優しいお伽噺に
子供たちはいつも守られている

僕はあなたの身体の隙間にそっと指を入れる
どこかにまだ先週末に終わった懐かしい
戦争の記憶があるはずだった
生きる速度で人は死に
死ぬ速度で人は生きた
僕らはその間小さな工場で
確かに数を数えていた

波にさらわれて自転車はハンドルを失った
車輪を失い
サドルを、荷台を、フレームを順番に失っていった
それでも自転車は自転車であり続けようとするので
もう何も答えられない



自由詩 会話 Copyright たもつ 2007-11-15 19:39:55
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