バター熊
華子

小熊はときどき囓る
わたしの腕や足や首や耳を
するどい牙で無惨に裂いてしまう
真っ白なわたしの肌の裂け目から
きたならしい液体がドロリとあふれでてしまうから
床にしみつかないように必死でかき集める
汚さないように、小熊に触れてしまわないように
手ですくって戻そうとするのに
小熊はその真っ黒な鼻先を
わたしの傷口につっこもうとする
バターのようにとろけそうな激痛で
わたしは思わず小さな悲鳴をあげる
脂肪の塊を鼻先にぶらさげ
澱んだどす黒い液体でふかふかの毛皮を汚したまま
小熊は死んだように眠る

そして目を覚まし、わたしのまだ新しい傷口を見て
小熊はぽろぽろと泣いてしまうから
怖がらないように、おびえないように、嫌いにならないように
甘く透き通った薬を飲ませて
小熊をずっと眠らせてしまうんだ


自由詩 バター熊 Copyright 華子 2003-08-30 22:34:25
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