真珠
木屋 亞万
あの方の肘にある小さな貝殻は
古傷特有の湿り気を持っていて
滑らかな光が淡いピンクに色付いている
後ろから抱え込む時に我が左手は
決まって彼女の右肘に触れる
幼い頃に負ったすり傷の残る手は細く
どこかの樹木の枝のように白い
右肘の奥には結晶化した真珠が
関節の動きを支えて回転しているらしく
彼女は実に器用に右手を我が首に絡める
その肌の光沢も深海の宝石がこつこつと
身体の芯を抜けて肌へと
湧き出た痕跡で
風が吹き雨が降れば消えてしまいそうな
目の核は黒く淵は半透明な褐色だった
目蓋を少し波打たせながら我の栓に迫る
鼻がぶつかり合わぬよう右に避けて接する
山肌に緩やかな我の息がかかって
山は少しくすぐったそうに笑う
波にさらわれた貝殻が首の後ろでそっと開き
零れ落ちた真珠は
山の斜面にぶつかって
弾みながら転がっていった
自由詩
真珠
Copyright
木屋 亞万
2007-11-01 23:55:14
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