アンテ

                        6 瓶

とうとう
見つけられなかった

盗撮カメラの場所は
写真のアングルからすぐにわかった
居間と浴室
無線LANとモバイル端末
電源は照明に連動していた
気づかないのがおかしいようなところ
ばかりで
だから
バカみたいに謝りつづける
リエちゃんに
すこし腹が立った

あれからずっと
消滅したもののことを考えている
思いつくものは
すべてチェックした
でも
あたしには
大切なものがひとつもないから
だから
確かめようがない
のかもしれない

正直なところ
自信がない
たった一枚でも
成美の写真が見つかりさえすれば
でも
最初から
いなかったのかもしれない

生まれて初めての恋人だったんです
マユコさんのことは話したけど
ここへ連れて来たことなんてないです
きっとわたしを尾行してここを突き止めて
合鍵を作って入ったんです
そんなことをする人じゃないって信じたいけど
パソコンのこととか詳しいし
だからきっと
カードのこともあの人が
そのくせ
名前は最後まで言わなかった
お金弁償します
鍵もぜんぶ交換します
顔も見たくないならもう来ません
だからお願いします

今までマユコさんの所にいられて
本当に救われたんです
だから

どうすれば
確かめられるのだろう
消滅してしまったものは
思い出す以外
ないのだろうか
でも
近くにないものは
確かめようがない

笑い声がする
変だ
あんな紙切れを信じている
なんて

肩を落として帰っていった
リエちゃん
ドライバーでネジを締めなおせば
またちゃんと
あたしの身体を
支えてくれるだろうか

押入れから瓶を出す
大小さまざまなネジが
口元までぎっしり詰まっている
持ち上げるのもひと苦労だ
今も
電車やバスは
なにごともなく動きつづけているのだろう
あるいはもう
新しいネジが取り付けられている
かもしれない
そうか
消滅したのは
身体じゅうのネジなのかもしれない
きっと
それは
あたしにとって
とても大切なネジだったのだろう
とてもとても
大切なものだったのだろう
瓶をはなす
物凄い音がして
ガラスの破片が四方に飛び散る
ネジが床を転がる
いろんなネジが
いろんな音をたてる
足がずきずき痛む
ガラスで切ったのだろう

ネジは
痛みを感じないのだろうか



                          連詩 観覧車





未詩・独白Copyright アンテ 2007-10-30 01:18:33
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