途中下車 (再掲)
mizu K


あ いやん くすぐったいわ
だめよ そんなところ
さわっちゃ
ママがかえってくるわ
ああん いやん
だめってばあん   あはん

という本をとなりの座席
の人が読んでいたので
なんとなくとなりから読んでいて
なんとなく耳たぶあたりがぽかぽか
していると

赤くなりましたね

といって車掌がすたすた
通りすぎていった

しかたないので次の駅で
降りてホームをすたすた
歩いていると人はみな
駅舎の柱をよじのぼっている

くもの糸のようですね
そう杖をついた人がいう

半透明の駅舎の屋根
あわいひかりでうすぐもり
たまごのからのよう

みな嬉々として線路上に横たわっているから
ダイヤはいつもおおいに混乱しているから
みな時刻表を火にくべて灰にしている

階段をからんころん
降りるときに
あやまって足をすべらせた
すべらせたのでしょうがないので
わざと頭から飛びこんでみる

あしたは晴れるらしい
そうはればれとした顔で
階段から飛びこむのだ

ホームで女の子が
風せんが飛んじゃったと泣いている
幸い駅舎の柱の上の方にいた人がそこから
風せんをつかんで
事は解決した

はずなのだが始末の悪いことに
柱の上の方にいた人がそこから
風せんをつかんで飛びおりたので

消火剤がホームに飛び散って
みんな小麦粉をかぶったように白くなって
目をぱちくりさせている

改札への道のりは遠い



自由詩 途中下車 (再掲) Copyright mizu K 2007-10-29 23:40:13
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