アトリエ
1486 106

18世紀のフランスに
アドニスという画家がいた。
貿易商の家に生まれた彼は
教育熱心な母親に育てらたため
学校での成績は優秀だった。
17歳の時に訪れた美術館で
向日葵の絵画を目にした彼は
その頃から絵を描くことに目覚め
独学で絵画技法を学んだ。
やがて印刷会社に就職したが
画家としての夢を諦めきれず
二年で勤めていた会社を辞めた。
その後細々と活動を続け
28の時に描いた作品
「セーヌ川」が高い評価を受けると
ロレーヌ郊外にアトリエを構え
優れた作品を数々生み出していった。
初期から中期にかけての作品は
写実的な作風と明るい色使いが特徴で
小麦畑で遊びまわる娘アンナを描いた
「至福の一時」は彼の代表作として知られている。
56歳までに500もの作品を生み出した彼であるが、
一人娘アンナの死をきっかけに変わってしまった。
1920年6月20日、彼は突然アトリエに閉じこもり
外部との接触をすべて断ち切り
地位も名声もすべて投げ捨て絵を描き続けた。
一週間後彼は椅子に座ったまま息絶えていた。
傍らには彼の残した最後の絵。
黒と赤を基調とした作品で
洞窟の中を彷徨う老人と悪魔が描かれていた。
今までの作風とは大きく異なるが
独特の筆使いは彼の作品そのものであった
後にその絵画はオークションにかけられ
スイスの画商に高値で買い取られた。
タイトルの残されなかった作品に
人々が付けた名前は「絶望」


自由詩 アトリエ Copyright 1486 106 2007-10-29 16:26:47
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