ゆく夏の陽炎にて
こしごえ

電信柱の先が
お墓のあたまに見えた
あそこでセミに鳴かれては
私は独り笑み
アイスクリームのとけるままに
いつまでも返事を、まつのだった

べとんべとに常温で濡れてしまった
床を拭きながら、あれで最後なのだという
予感をぬぐい去ってゆく

立て膝のまま
セミの声が遠ざかってゆくのを聴いている
瞬間を逃さず
息を継いで立ちあがる

雑巾をすすぎしぼる素手が しびれる。
あのひとの名は
左手の薬指に刻みつつ忘れて
面影のみが残った
今日は、やけに暑い
こんな日には 陽炎で焼かれた
面影が眩暈していることだろう

つづいていくようで
ここは、昼下りの静かな霊園か
生きている者は だれひとりとしておらず
懐かしい音で
、ならない電話 が在るだけ。、


自由詩 ゆく夏の陽炎にて Copyright こしごえ 2007-10-29 15:00:20
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