潔癖症と雨夜の光り
千月 話子

稲妻が 夜の闇を切り裂くように見えるのは
上空に溜まった 汚染物質を
宇宙の穴に 吐き出しているからなのだ
と 夢の中で創造主らしき者の声が
頭の中を 低く駆け巡った

それから私は 雷の光る空を見ても
以前ほど 怖くなくなってしまった


その日 絵画教室で
裸の女をスケッチする手を
思わず止めてしまったのは
一瞬切れた ヒューズの闇の中
滑らかに凹凸した 裸婦の曲線に沿って
稲光に映し出された 雨と窓枠の影が
螺旋状に渦巻く様を 見たからだった

やがて 一仕事終えた女は
まるで 憑き物が取れたように
すっきりした顔で教室を後にした

切り裂かれて放出した 彼女の汚れが
何だったのか 知る由もないが
爪の中まできれいに洗いたがる
私の潔癖症が その時
稲妻を欲したのは 間違いなく真実だった

地上に浮かんだ人の汚れは 老木に宿り
稲妻と雨の夜に 裂かれ
喜びの悲鳴を上げて 土に帰る

そして 私の汚れを
もう花を付けない 公園の
3っつ目のベンチ脇の
きれいに葉を落とした 木に託そう




自由詩 潔癖症と雨夜の光り Copyright 千月 話子 2004-06-08 23:18:14
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