動物園にて
シャッターコーン

―動物園のライオンが言った
この間 サバンナとかいう所の夢を見たんだ
ワシはここで生まれ育ったから
どんなところかは 実際知らないのだがね
それでも何だか心地好くて
高い空と草の匂いが 
まだ この瞼の裏や鼻の中に残っているよ

ここの生活は悪くは無いが
あれから 視界が狭く感じられるんだ
出来るなら最期は 
あの夢を見たまま逝きたいねぇ
 ところでアンタは
 何処で生まれたんだい?

―最後のリョコウバトが言った
この地図をアンタにあげるよ
アタシが旅する時に必要なモノだ
かつてアタシは50億ほどもいて
一つのところに留まることなく
空を蔽い尽して旅をしていたんだ

もちろんアタシは ここ生まれ
50億のアタシが 今何処にいるのか
誰も教えてくれないけどね
聞いた話ときたら アタシはそのうち 
はく製になるってことぐらいだよ
でもそんなことはどうでも良い
だって思いっきり飛べる日が
もうすぐ来るんだからね
その時に必要な地図は
もうすっかり憶えたよ
だからそれはアンタにあげる
 ところでアンタの生まれは 何処なんだい? 
 待って、あてて見せるよ
 その眼はそうだね、
 アンタも同じ ここの生まれだね?


私は檻のこちら側で 苦笑しながら頷き
リョウコウバトから地図を受け取った
地図は抜けるような蒼い色で
目印も何も描かれてはいなかった
 微かに風と太陽の匂いがした




自由詩 動物園にて Copyright シャッターコーン 2004-06-08 21:34:52
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