おじいちゃんへ
北大路京介

去年の今日。
2006年の10月26日 昼過ぎに、祖父が他界しました。
祖父が亡くなって、ちょうど一年になります。

祖父が亡くなったとき大阪にいました。
知らせを受けて、
すぐ帰ったのですが病院に駆け付けるまでに一時間以上かかりました。
一番心配していたのは祖母のことでした。

病院に着いたときには、すでに祖母の隣には妹ふたりがいました。
祖母と妹たち、泣きまくって目が腫れてて、涙のあとも見えましたが、
ペラペラ喋って、笑ってました。

祖父が亡くなったばかりで、悲しみでいっぱいの祖母を笑わせられる妹たちは凄い。
おばあちゃん、入れ歯が はずれるぐらい笑ってました。
飛び出した入れ歯を見て、またゲラゲラ笑いました。
祖父が死んだばかりとは思えないぐらい明るく。
きっと、妹たちは 祖母の悲しみや寂しさをマシにしようと頑張ってたんやと思います。

「 いい孫がいて良かったね、おばあちゃん。」
一年経った今、改めて思います。
家族の良さって、こういうところなのかもしれません。

妹たちは それぞれ祖父へ手紙を書いて、お葬式で読み上げ、棺桶に入れました。
僕は手紙を書きませんでした。
書けませんでした。言葉が出てきませんでした。
祖父の好きだったタバコ(マイルドセブン)と
燃えても大丈夫な 木でできた将棋の駒と 将棋の板、詰め将棋の本を買いに走り、棺桶に入れました。
なんで、あのとき言葉が出てこなかったのか、わかりません。

いま 僕が祖父に手紙を書けなかった、そして読めなかったのは、必然的だったような気がしています。
今日、この日のために 祖父は僕に 何も書かせなかったのではないかと。そう思えてきました。

今日、新風館である「京都ポエトリカンジャム」というイベントに出ます。
詩を朗読するお祭りらしいです。
祖父は、それが10月26日に行われることを予知してて、息を引き取ったのではないかと。
いまの自分は 去年読めなかった手紙を書いて、読まないといけない気がしてしょうがありません。

*−*

おじいちゃんへ

おじいちゃん、詩とかポエムって、なんやろうな?
なんで ぼく、詩の朗読イベントに出るんやろうな?
詩とかポエム、おじいちゃんも 僕も そんなに興味なかったやん。
場違いやと思う。
でも、おじいちゃんが やらせてるんやと思うことにするわ。

おじいちゃんが亡くなって、今日で一年になる。
天国からちゃんと いつも見守ってくれてるか?

おじいちゃんがいなくなって ホンマ寂しいわ

おばあちゃんの家、
おじいちゃんの大きなベットがなくなってな
すごい広くなってん
でも寂しいねん
心なしか ちょっと暗くなったわ

それでな 蛍光灯の上の部分にアルミホイル張ってん
反射する分 ちょっと明るくなるやろ
明るさ2割り増しになるみたいやで

おじいちゃんが生きてるあいだにやっておけば良かったなぁ
でも そういうことしようと思わへんかったんは、
おじいちゃんがいて、明るかったんやろうな  その場がな


「なんたぁ あらへん」 それが口癖だった おじいちゃん

「なんたぁ あらへん」言うて
お医者さんのいうこと聴かんと 運動もせんと 脂っこいものばっかり食べてて
それで 脳梗塞や
「なんたぁ あらへん」こと あらへんかったな

でもな 細かいこと気にせんと
「なんとも あらへん」と思ったほうが良いことも 多いわ。
最近、そう思う。
「なんたぁ あらへん」 その言葉、僕も使うことにするわ。

小さい頃 おじいちゃんにデパートに連れて行って貰うの大好きやった。
大丸に高島屋、阪急、近鉄。
こないだ近鉄百貨店やったとこの前通ったら、解体工事してたわ。
おじいちゃんとの想い出の場所が ひとつ消えてしまうかと思ったら すごい寂しかったわ。

おじいちゃん、元気やったら、新風館にも来てたかな?
「わかもん向きやから」いうて、こーへんかったかな?
おじいちゃん、ハイカラなもん好きやったし、 ヴィレッジヴァンガードとか気に入ってたかもな。
トイカメラに はまったりしてたかもな。
おじいちゃんが使いかたも わからへんのに質屋で買ったカメラ、あれ、僕が貰ったよ。
これからカメラ勉強して、写真撮るわ。

おじいちゃんが息をひきとったあとな
おばあちゃんが心配やってん
おばあちゃんのショックは計り知れへん 心配やってん

でも うちに ようしゃべるうるさい妹おるやろ
涙目やったけど、おばあちゃん 笑わせてたで。

「おじいちゃん、さっきなくなったばかりやん!」
というのに
おばあちゃん、入れ歯はずれるぐらい笑って
また 入れ歯が飛び出したことに みんなで笑ったわ。

その妹のな、おねーちゃんのほうな。 たぶん、来年、結婚するねん。
こないだな、家族全員で その旦那になるかもしれへん 彼氏と御食事してきてん。
優しそうで、真面目で、おもろい、えぇ男やったわ。
ちゃんと幸せになれるように守ってやってな。 たのむで。


おじいちゃん、大好きやで。
おじいちゃん、ありがとうな。

明後日、みんなでお墓参りするさかいな 待っててや。
おじいちゃんの葬式の時のな おもしろい話するさかい 楽しみにしててや。


未詩・独白 おじいちゃんへ Copyright 北大路京介 2007-10-26 04:38:58
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