The bigger, the better
んなこたーない

まだしばらくの間はこの世で生きてゆくつもりであるなら、次のことは一考の価値がある。
――世界はわれわれが予想しているより広いかも知れず、
  われわれはわれわれが信じているものから、いとも容易く裏切られるかもしれない。

たとえば、駅徒歩5分と書いてある不動産物件は、まず5分では駅に辿りつけない。
だからといって、自分の足がひとより短いのではないかと不安になる必要はない。
なぜなら、すでにハッブルによって、宇宙は膨張していることが確認されているからだ。
あと何十年もすれば、いまぼくのいるこの部屋もきっと野球グランドくらいの広さになるだろう。
ぼく自身、胎児のときから比べると何倍もの膨張を経験している。
過去に愛した女性は、もはや連絡を取ることもできない。そのうえ、心はそれ以上とおくに離れてしまっている。
宇宙は膨張をつづけ、世界はわれわれの予想に反して広いのである。

食の安全について考えてみよう。
ナチュラルへの信仰は強く、農薬は必要悪であり、輸入品は危険視される。
しかしぼくのせまい見聞では、輸入食材で身体を壊した人間はいない。
一方、国産の牡蠣で食中毒になったひとはいる。
肥満、アル中、虫歯などを患ったひとは何人もいるが、これらを一概に食材のせいにすることはできない。
もしぼくがいきなり徹底したナチュラリストへの転向を強制されたら、それだけで頓死しそうである。
なにより、野菜や果物があんなに美味しいのは品種改良の賜物であろう。
生まれてはじめてデコポンを食べたときの感動は忘れがたいが、あんなものが自然に発育するはずはない。
母なる大地は必要以上に慈悲深く、どうも彼女は苦いものや青臭いものを好むようである。

ナチュラリストといえば、以前、大麻礼賛の集団に囲まれて辟易した経験がある。
そのピースフルな態度に、なぜかウンザリしてしまったのである。
陶酔的な一体感にはなかなか溶け込むことができない。
スポーツ観戦でもクラブのイベントでも、その場にいると、妙にシラフになってしまうのである。
どのようなユートピアも全人類を容れるだけのキャパを持たない。
われわれが当然と信じているものを、毫も信じないひとはいくらでもいる。
世界は広い。といって、「The bigger, the better」ともろてを挙げて歓迎する気にもなれないのだが。

暇があるなら、次のことを一考するのもいいかもしれない。
――The biggerなバストが好きな男は多いかもしれないが、
  The biggerな子宮が好きな男は、多分、少ない。


散文(批評随筆小説等) The bigger, the better Copyright んなこたーない 2007-10-25 00:41:21
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