アンテ

                        5 空

風がやけに激しい
気になって
窓を開けてみたけれど
陽射しはおだやかだ
柿の葉が時々かさかさ揺れる
以外に
なにも聞こえない
今 何時だろう

スリッパをはいて外に出る
歩道を歩いて
何度か交差点を曲がり
手入れのいきとどいた庭の
まえでしばし花を眺めて
奇妙な形の雲が流れていくのを
見上げていると
立っている場所がおぼつかなくて
錯覚
だとわかっているから余計
足に力が入る

元気のない風船の
糸を
強く握りしめる
カーディガンを羽織ってくればよかった
どこかで飼い犬が吠えている

ずっと前に開設したきり
何年も更新していなかったサイトは
どこか別のあたしによって
大幅にリニューアルされていた
毒々しい画像とリンクの洪水
あたしのブログは
おもしろおかしく
自由気ままな性生活を謳歌していた
掲載された電話番号も
顔写真も
あたしじゃないと断言したいのに

ベンチに座る
滑り台と鉄棒しかない公園は
雑草の独断場だ
リエちゃんになんて言おう
ちゃんと耳をすませば
たくさんの音があふれているはずなのに
黄色い風船に
印刷された携帯電話の宣伝が
くるる
向きを変えるたび
見えかくれする

それでいいの
が成美の口癖だった
どうして
があたしの口癖だった

糸をはなす
風船は空へ昇っていくかわりに
やる気なさそうに地面に降りて
それきり
動かなくなる
リエちゃんがもらってきて
何日たっただろう
ベンチにもたれて

それだけ
ただそれだけ

同じアングルばかりの
室内のショット
最近見あたらなくなった物が
並んだオークション
サイトのデータ更新用パスワードは
カードの番号
足すイニシャル

鉄棒
やってみよう
強く握りしめると
ざらざらした手触りが
懐かしくて
あたし
成功したことあったっけ
スカートはいてるし
気にしない 気にしない
思いっきり前回り
もとに戻れずに尻餅をつく
なにかが顔に当たる
黄色
がやる気なさそうに
浮かんでいる

古いお城
なのだそうだ
物語がはじまると
役者がたくさんやってきて
さんざん大騒ぎして
終わったとたん
ひっそり静まり返る
そんなお城

手を伸ばす
触れた瞬間
風船が割れる
ゴムの欠片が飛び散る
小さな紙が中からこぼれ落ちて
手のひらに着地する
見慣れた筆跡
あたしの大切なものが
あと10秒で
消滅します
かちっ
スイッチが入る音がして
数字が減っていく
風が

違う

なんだろう

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紙を握りしめて
身を起こす
鉄棒にもたれかかって
空を見上げる

雲が
ゆっくりと流れている



                          連詩 観覧車




未詩・独白Copyright アンテ 2007-10-24 01:11:53
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