曖昧ならせん
とうどうせいら

あなたは
いつも楽しそうだけど
時々
みんなから離れて
ぽつんと一人で
カメラをいじっているよ

わたしが寄っていったら
笑って
たまには
わたしの写真を
撮ってくれるから
思いっきり変な踊り踊るよ

わたしのこと
きれいな声って
あなたは言う
しゃべり方が
ほっとするって
あなたは言う

じゃあ
わたしの頭
なでなでして
って言ったら
また微笑んで
カメラの手入れ始める

いつも
さらりとかわすから
わたしは
体操座りで
あなたの隣に座って
下を向く


わたしは
篭から出した果物ナイフで
梨を剥く
あなたは
レンズを
拭いている

梨の皮と果実は
いっしょのような顔して
実ってきたけど
本当は違う世界のものだった
らせん状に剥がされて
行くべき所へ行くんだ

滴るクリームホワイトの果実を
くし型に切って
あなたにあげた
黄色い皮は
新聞紙にくるんで
あとで くず入れへ


梨を
受け取る為に
ひととき 
カメラを置いて
あなたは
歯を立てる

シュカッ

唇も
指もべたべたにして
うまい って
笑うよ

どうして
そんなにきれいな笑顔
浮かべるんだろ
いつも完璧だよ



ガシャーン



わたしは
あなたのカメラを
叩き付ける

踏む
破片が飛び
血の出る足で
壊す
驚くあなたを捕らえて

濡れた指を
唇を犯す

わたしだって
こんなに熟れている
あなたを待ちながら
甘く芳香して
焦がれながら
膨らんで





と、まあ

そんな風に
あなたに迫るところを
空想する
それだけ

ふたり
平和に
梨を食む
モシュモシュ

そんな詩みたいなことそうそうあるかっつーの


食べた後の指を
咥えて
汁を舐め取るあなたは
まるで子どもみたい
ハイと
ハンカチ貸したら
サンキュ って
ぐいぐい拭く

ついでに振り向いて
わたしの口の周りも
ちょっと拭いた

布越しにあなたの指が
触れた時
わたし
このまま
溶けてしまえば
いいと思ったんだ


再び
カメラを持ったあなたは
もう
いつもの位置で

わたしは
誰にも開かれない
あなたのことを
やっぱりここから
いとしく思う


カメラのことも
あなたのことも
梨の実のことも
皮のことも
みんな
いとしく思う




自由詩 曖昧ならせん Copyright とうどうせいら 2007-10-22 19:08:07
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