サンガツ
mizu K



サンガツ
山月にたなびく、かすみぐも
岩石層に堆積した破片から
雲母を削り出した
三月の夜

月は出ていた
犬が遠吠えていた
猫はこたつでまるくなっていた
かもしれない夜

羊飼いが小山の頂きで
パンフルートを吹き唄っている
かすみぐも、たなびく
三月の夜

ごらん
夜空がなにもかも乳白色にみえる
そんな夜は

この世の理がどこか
地すべりを起こしている
起こしている
地すべりの断層の
破片

祖父が親父のためにつくってくれた
手づくりのシーソーが朽ちようとしている
もうずいぶん前につくられたから
朽ちようとしている
朽ちようとしている木づくりのシーソーから
キノコが生えている
げにその生命力の強さ

(実はワライタケ)

子犬のジョニーがころころ転げまわって
きいろのかわいいちょうちょがひらひら飛んで
ときどきぴょんぴょんウサギがやってきて
モグラがもそもそ顔を出している
そんな絵に描いたような風景を
絵に描いてみた
描いてみて
それがどうも気に入らず
絵描きは自分の描いた絵を
ばりばり破り捨てたらしい
三月の夜

(たぶんウクライナ)の話

そんな夜にも
月は出ている

サンガツ
山月にたなびく、かすみぐも
岩石層に堆積した破片から
雲母を削り出した
三月の夜

から遠くかけはなれた殺伐とした
都会のビルヂングの上に
犬の遠吠え、やはり
猫はこたつでまるくなっていた
かもしれない夜

山を下りた羊飼いが
都会のネオンの下で
やっぱりパンフルートをストリートで吹き唄い
その頭上には
かすみぐも、たなびく
やはり三月の夜

ごらん
夜空がなにもかも乳白色にみえる
そんな夜には

どこかの銀河の船乗りもまた
かすみに針路を見失い
羅針盤と磁石をにらめっこ
あとは自分の直感たより
さて、あとは言うことをきかない櫂を直すだけだ
こうやってぐにっと曲げてな
まじないを少しかけてやれば
少しはまじめに働いてくれる
このまじないはな
友だちの羊飼いが月夜の丘で
教えてくれたんだ
彼は今、どっかの街角で
パンフルートを吹いているだろうよ
彼が吹いている曲のタイトルはたぶん
「自分の描いた絵が気に入らなくて
ばりばり自分の描いた絵を食べてしまったある絵描き」とか
「月に向かって愛する人のために遠吠えている
ラブ・ソングが実はただの近所迷惑の犬」とか
そんなタイトルだろうよ

サンガツ
山月にたなびく、かすみぐも
岩石層に堆積した破片から
雲母を削り出した
三月の夜

月は出ていた
犬が遠吠えていた
猫はこたつでまるくなっていた
かもしれない夜
山にもどった羊飼いが小山の頂きで
パンフルートを吹き唄っている
かすみぐも、たなびく
三月の夜

ごらん
夜空がなにもかも乳白色にみえる
そんな、夜には




自由詩 サンガツ Copyright mizu K 2007-10-22 03:54:43
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