鳥女
楢山孝介

  *注
  http://www.quilala.jp/prize.html
  で読める掌編小説『鳥男』のスピンオフ詩作品


鳥女は鳥であるから空を飛び
女であるから山に降り
やっぱり鳥であるから卵を産んだ

産み落とした三個の卵を見つめながら
鳥女は鳥男のことを思い出した
空で出会った
空で交わった
それから
それから
鳥女は記憶力が悪かったので
鳥男の顔はぼやけ始めていた
漠然とした快楽の残滓に酔いしれた

鳥女が鳥男のことを考えている間に
忍び寄ってきた猿女が卵を一個奪った
猿女が逃げ出す前に我に返った鳥女は
鋭いくちばしで猿女の心臓を貫いて殺したが
卵は既に食べられてしまっていた
猿女をいくらついばんでも
卵は戻ってこなかった

鳥男はもういない
鳥女を置いて飛んでいってしまった
それはそれで仕方ないと
鳥女は本格的に鳥男のことを忘れることにした
何しろ卵を守るために
強く在り続けねばならなかった

巣を構えた鳥女は
卵を狙って近付くものどもを迎え撃った
犬女も人女も突き殺した
それでも守りきれず
いつしか卵は失われてしまったのだが
巣を守る理由も忘れてしまっていた

卵をなくしてしばらく経った鳥女のもとに
翼を折られた鳥男が墜ちてきた
いつかの鳥男なのかはわからない
何しろ鳥女は忘れっぽい
それでも鳥女は思い出した
自分が空を飛べることを
かつて大空を飛び回っていたことを

鳥男を食べ終えると
鳥女は空へと飛び立った
山を後にしながら
漠然とだが
何かを失ってしまったことを思い出した
ああ、あああ、ああああ
それは哀しみの叫びだったのだが
近くを飛んでいた鳥男を欲情させた
少し前に同族を屠ったその鳥男は
今度は同族を作るために
鳥女のもとへと近付いていった


自由詩 鳥女 Copyright 楢山孝介 2007-10-21 11:18:23
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