水母
こしごえ


私は、私の影であり
影は、影の影である。

どこまでも
黒く透ける現し身を
冷たい風がなぞり
さみしい熱を奪い去っていく
だからといって みたされることはない
このささやきが、色づかない限り


   声の静止


青白い顔をした稜線のそよぎが
ひっそりとしたまなざしで
私の影を続いている

風のしじまが
声を
心の声を聴いて
一羽の黒いアゲハチョウとなり
窓辺から飛び立って舞う

いつかの国の
高くつみあげられた
石の塔の頂で
目を瞑らなければならなかった
声を生き血がさかのぼっていく

空っぽになるまで
うちあける声を放つ充足の
歩みはつきることはないが
うすいくちびるをそっと
とじるのが みえた

青白くそよぎ


ぬれた指先を黒髪でほどくと
つかんでいたことばが
声になってしまった
さようなら。
さよなら

別れの感触を探る
耳を熱くさかのぼる ふねの
ろのうでが
さやかな光沢を放ち
はねはゆぅらりゆらりと瞬いて
しろがねの小波をかきすすむ

絶滅危惧種の喘ぎを去る煤煙が
無法地帯へ旅立ち
起こされることのないねむりで
真空放電する静脈管をつらぬき
忘れずに手を振る
私の亡霊を
ひきずるな影よ

迷蝶が
林の中で息切れる
しずまりかえった
木々で
いちよういちよう息をしている
仄暗い目差が
はなうたをくちずさみ
みちたりた風にゆられて 発光を始める









自由詩 水母 Copyright こしごえ 2007-10-19 10:00:11
notebook Home 戻る