水の中を
月が通り過ぎていく
旅人は何処へ行くの
水の中を
夜が通り過ぎていく
旅人は何処へ行くの
水の底を
風が歩んでいる
水の底を
よろこびのかなしみのあこがれの
森が燃え上がり
浮かんだ夕闇の破片は流れている
その旅人は何処へ行くの
雲は溶けていく
もどらない光があり
とりのこされた灰は
灯し火のはばたきを追憶して
変容していく
みなもを
ねえ その旅人は何処へ行くの
はじける水のまわりを
影とかがやきが舞い
愛しさはよみがえるが
恋は死んでいる
その恋はもう死んでしまったよ
水に闇は重なり
ただ重なり
重なり続けて
こんなに透きとおった
草原も空も鳥も
残りはしない
高みを過ぎる時計よ
さだめの果てが来ても
君を葬るものがいなくても
彼は旅立っていく
旅人は何処へ行くの
あの旅人は何処へ行ったの
もどりはしないものが
もどらない笑みの中で
もどってくるの
ああ
終わらないものが
終わることのないものの中でさえ
終わらないようにね
旅は終わらないの
秋の水は
冷たくて
きれいだね