愛とは
日雇いくん◆hiyatQ6h0c
俺は友人の吉野に確かめたかったことがある。
同じクラスの女子の、山岡が好きなのかどうかだ。
俺は、彼女は吉野のことが好きだったのを知っていた。
なぜかといえば、山岡から吉野へラブレターを渡すように頼まれていたからだった。
ケータイじゃ心が伝わらないし、でも私から渡したりできないから、と彼女が言っていたのを思い出す。
だが俺は、実を言うと山岡が少し好きだった。
だから少しだけくやしくて、山岡から受け取ったラブレターを渡さずに、家の机の引き出しにしまったままにしてあったのだ。
その後山岡から返事を聞かれたが、そのつどごまかしていた。
だが、もうごまかせないところまできてしまっていた。
彼女はほどなく入院し、俺のよく知らない不治の病というやつで、余命幾ばくもない状態になったのだ。
俺は自分の行いを悔いた。
吉野に本当のことを言おう。そして一緒に、山岡を見舞おう。そう思ったのだ。
俺は決心し、ある日の放課後、吉野を誘い家に帰った。
「なあ、話ってなんだよ? 宗教の勧誘か?」
俺の部屋に入った後軽口をたたく吉野に、俺は机の引き出しを開けて、山岡から頼まれていたラブレターを吉野に渡した。
吉野が一通り読み終わるのを待って、俺は口を開いた。
「俺、少しだけ山岡が好きだったから、渡すのがやだったんだ……」
「……うん」
「だけど、山岡もいつまで生きられるかどうかわからないし、もしお前にこれを渡さないまま山岡が死んでしまったら、俺、一生悔いが残ると思って、だから……」
「……うん」
「なあ、聞きたいんだ」
俺は、重い表情になっている吉野に切り出した。
「あいつのこと、どう思う」
「……別に」
「べ、別にって……」
俺は驚き、まくしたてた。
「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」
「別に」
「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」
「あ、そう」
「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」
「別に」
「お前の返事を待っているはずなんだ」
「あ、そう」
「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」
「別に」
「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」
「別に」
「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」
「あ、そう」
「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」
「別に」
「お前の返事を待っているはずなんだ」
「あ、そう」
「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」
「別に」
「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」
「別に」
「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」
「あ、そう」
「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」
「別に」
「お前の返事を待っているはずなんだ」
「あ、そう」
「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」
「別に」
「お前、あいつのことなんとも思ってないのか」
「別に」
「山岡はもうすぐこの世からいなくなるんだぞ?」
「あ、そう」
「かわいそうとかそういうこと、思わないのか」
「別に」
「お前の返事を待っているはずなんだ」
「あ、そう」
「山岡がかわいそうだとか思わないのか?」
「別に」
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(以下続く)