白痴のこと
りゅうのあくび

彼女は
他人のことを
一切話さない
でも言葉の壁
なんて何一つ
感じはしない

他の女性の話を
彼女の前で
したって
聴いていない
ふりをするだけで
毎夕 仕事帰りに
ドアを開けると
出迎えてくれる

終電が
無くなった
ある夏の
暑い日の夜
歩いて
家に帰る途中
家出をしていた
やや小さめの
影をちょうど
見つけて
面倒を見る
ことになった

彼女に母親は
もういない
兄弟も
もういない
彼女は
自分のことも
一切話さないのだ

ただ推測するに
彼女は絶家
になっているだろう
古い家族は
行方知れずに
なっていて

そして彼女は
汚れるのが嫌いだ
身奇麗にすることは
快適さではなく
彼女にとって
けがれでしかない
自分では風呂も
入らないし
爪も切らない

それで彼女が汚れる
と思ったときには
抵抗もするし
物陰にも
隠れようとする
何より高いところが
好きだし
無礼は嫌いだ

時々
お腹が減っては
しっぽを
ぴんと立て
それからひげを
震わせて
鳴く


自由詩 白痴のこと Copyright りゅうのあくび 2007-10-10 20:15:52
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