メドゥーサ
umineko

ぼう、と
汽笛が低く鳴いて
遊覧船が桟橋を発つ

湖の真ん中
ボートにたたずむ私たちを
避けるように右へと進み
エンジン音が湖畔に響く

よかったね
あのまま
まっすぐ来たならオダブツ、だよね

はしゃぐ私をしり目に
あなたのひとみが小さく曇る


遊覧船の残したさざ波が
水面を這ってくる

え?

鏡のような湖面は
今や
黒ヘビの形相で

揺れる
     揺れる
          揺れる

小さなボートの
舟底から
何度も何度も
黒ヘビの声

湖の真ん中で
なすすべもなく揺れる


あなたが
器用にオールを漕いで
舳先を波に
向けてなければ

私たちは
揺れて 揺れて

冷たい
冬の水底へ

私は
笑おうとして笑えない

何気ない言葉が
波が
牙を向けて寄せてくること

幾度も
学んだはずなのに


揺れる
     揺れる
          揺れる

あなたが
可笑しそうに空を見る

私は
生きるさみしさを
あなたに託したい

まだ
揺れ残るボートの隅で

私は明日を
強く願った






自由詩 メドゥーサ Copyright umineko 2007-10-08 12:10:04
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