海賊
狸亭
1
真っ青に透き徹る海が恋しい
真っ白に焼けた砂浜が恋しい。
湿気の多いべたべたする嫌な日
何でも有り余る肥大した無慈悲。
何故か連続して襲い来る不幸
大地は割れ火を吹く山の咆哮。
者共今こそ血の韻律を呼べ
遠い海賊共の真っ赤な夕べ。
物憂い揺蕩に身を任せながら
唯当ても無く漂う津津浦浦。
2
読みたい本がある。
欲しい本がある。
読みたいのと欲しいのとはかならずしも同じではない。
読んでしまった後でも持っていたい本は欲しいわけだ。
物欲は無いほうだが本だけは特別だ。
読みたくて欲しくて買いつづけて戴く本まであるのでふえるばかりだ。
捨てるか古本屋に持って行くかひとにやるか処分すれば良いのだが未練が残ってどうしてものびのびになって繁殖しつづけるので夫婦喧嘩が絶えない。
本ばかり読んでいるがいくら読んでも本は減らない。
カミさんは「本は借りて読め。家は買って住め」と言う。
ボクは「家は借りて住め。本は買って読め」と反論する。
しかしあんまり小言がうるさいのでそうかなとも反省して市立図書館も近いしするので読みたい本は借りるようになった。
読みたい本は借りるにしてもどうしても欲しい本はやはり買うしかない。
欲しい本はもちろん読みたい本だからである。
本は読めば読むほどもっと読みたい本が増える。
不思議なことだ。
食欲は落ちてきて粗食に満足しているのに読書欲だけは旺盛で未だに目移りはするし残り時間は少ないし。
欲望と能力の不均衡は拡大するばかりである。
こんなことでは死ぬまで幸福になれない。
3
ところで古本屋が消費税を取るのは納得できない。
リサイクルも消費なのだろうか。
識者の意見を聞きたい。
4
夕日が美しい
晴れた日の遅い午後いつもの散歩コース
小高い丘のベンチに腰をおろして一服する。
小奇麗な緑に彩られた市立公園の眼下森の向こうに
新興都市コンクリート住宅の群れノッポビルなど
生きている墓地風景が展開する
空気の澄み切った日には
送電線に区切られて左手に冨士山
右手に大山丹沢山蛭ケ岳などの丹沢山塊。
ああここはニッポンだ。
年金収入の範囲で支えられた自由
長い間ほんとうに長い間求めていた自由とは。
(コンナ些細ナ時間ヲ持ツコトダツタノダロウカ)
朝、アポリネールが首を切った太陽が
夕べ、 海に交わる時
ランボーは永遠を見た。
だがオレは今
湿ったニッポンの
変哲もない夕日をなんと表現しよう。
ペール・ラシェーズの墓地の高台から
セーヌの両岸に身を捩るパリを眺めて
「金銭と快楽」という怪物に対決するラスチニヤック。
ふるぼけた夕日に向って
白髪まじりの髪を風に吹かれて
男はひとり海賊を夢見て沈黙する。