一服
木屋 亞万

煙草の煙が頭に染み付いている
医者がいくら胸部のレントゲンを取ろうが
脳が灰色に色付いているのだから
透視でもしない限り異常には気付かない
肺はもともとピンクらしいが
灰色の肺のほうが洒落てるじゃないか
そう思わないか

煙草はコンクリートが合う
壁を背にして柵にもたれる
薄曇りの空に息を送る
やかんより長く煙突より短く
汽車のように動いていく顔に合わせて
撫でていく風が煙をさらう

遠くグランドが呼んでいる
放課後を通り越しすっかり眠っている学校
校舎を吸い込みながら土は渦を巻いて
栓の抜けた排水口のように景色を寄せている
原因と理由と結果のためだけに
動く必要なんてないのだから
呼ばれていてもいなくても行く

走り出して
両足はすぐ肺に絡まる
息と煙草が切れたため自販機へ立ち寄る
寿命の消費状況を口座残高で確認できれば
先月は赤だが今月は黒だ
そろそろ残りが少なくなっていると
危機感も持てると言うもの

雲がトイレットペーパーをよじるように
滑り落ちていくあの穴は
大きな深呼吸をするために広げられている
もうすぐ吐き出される
一通り雲を吸い込み
高級住宅街の大きな蔵を吸い込んだ辺りで
温泉が噴出すように白い煙が細く吐かれ
周囲の環境は均衡を取り戻していく

吐き出された煙は明らかに吸った量より少なく
地中に吸収されてしまったのか
生き残りが淋しげに浮かんでいる
地球はまだ青いのだろうか
灰色の星は洒落にならない



自由詩 一服 Copyright 木屋 亞万 2007-10-02 00:20:48
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