フォルクローレ
佐野権太

夜明け前
神々の気配が
冷えた大地をわたり
静かなうろに届けられると
指さした方角から
蒼い鼓動が、はじまる

やがて
優しい鋭さをもって
崇高な感謝があふれだすと
うずくまっていた家畜は
それぞれの肺胞をふるわせ
五本の指で
ばらまかれてゆく旋律に
金色の体毛をうねらせる

葦を紡ぐ女
傍らに包まれた乳飲み子
の澄んだ頬が
猛禽の描く弧を
おとなしく見つめている
木管をすり抜けた
細い呼気が
乾いた空を自在にかすめる

フォルクローレ
どれほど文明が発展しても
心音の速さを越えてゆけば
どこか崩れてしまう

フォルクローレ
混ざり合い
受け継がれてゆくものを
透徹した眼底に映したまま
老人がひとり
岩になる





踏み鳴らすかかとから
素朴なりずむが生まれる
開放する息づかいから
命の旋律が生まれる

言葉はいらない
すべてを剥ぎ取り
肯定される安らぎにしがみついて
泣けばいい
ただ美しく、泣ければいい
寄り添えば、楽曲が生まれる

羽根飾り
太陽の踊り
炎の揺らぎ

遠い
笑い声
息づかい
踵、踵、踵

少しも心配などしないで
大いなる力に任せて
風の方向に
傾いて
眠れ






*フォルクローレ・・・中南米の民族音楽


自由詩 フォルクローレ Copyright 佐野権太 2007-09-26 10:41:41
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