空を描こうと思って
砂木

やっぱり残業してから見舞いに行くと
二十歳の彼が仕事を続ける
おじいさんの入院で家族も忙しいのだろうが
今 自分が抜けたら仕事も大変だと見極めた
この二年近くで働き 大人になったなと思う

私が二十歳の頃 入院したと知って見舞った時
先生は 四十代になったばかりで今の私くらい
あまりよくない症状だと聞いていて
おずおずとのぞきこんだ病室で
あらっ ゆうこさんにまできこえて言ったのかと
病気を 笑い飛ばしてみせてくれた

今ね 空を描こうと思ってね と
スケッチブックに 病室の窓からの空
国語辞典を読むのが楽しいの
こうやって広告を折ってゴミ箱を作るのよ
ちょっと待って 食事がきたから
量が多くて食べきれないの 半分食べてね

お見舞いに行って元気づけられて
お昼のご飯まで 半分いただいた
親切にして貰ったのは私だけではなかったのだろう
亡くなったあと お葬式に出席していた
同じ病室だったという人々
ご飯を運んだりお茶を運んだりしてあげてたんだきっと
私が ご飯を半分いただいた時にみた あの時のように

あの頃の先生と同じ年になったけれど
あの時の先生のようにはなれない
でも先生のことを思うと私もしっかりしなければと思う

高速で病院に行くという彼 その方が速く着くからと言う
あまり車を飛ばして あなたまで事故にあったら
家族がもっと大変だから ゆっくり行け と
よけいなことを ひとつふたつ言ってみる
また このおばさんはと思われるだろう
それでも多少 好意と受け取って貰える余地があるなら
それは 私の力ではない

先生 私もこんなふうにみえていたんですか
まだ教えていただきたい事が たくさんありました






自由詩 空を描こうと思って Copyright 砂木 2007-09-23 09:15:41
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