螺旋
ワタナベ

八月はしづかに
葉先からくれないに燃え
白い節くれだった骨になる
そのつつましさの中に
芽吹こうとする強い意志を隠しもっている
漂流する鳥たちは
わずかの間のよすがを求め
自らの骨のゆめをみる

アルジャーノン
知ることがぼくの苦しみだとするなら
ただ季節のうつろいに体をあずけ
あるがままの骨になることが
やすらぎなのだろうか
ぼくの骸を苗床に
咲く一輪の花のうつくしさを
ぼくが知ることはない

歩くたびに
たんぽぽの綿毛がふわりふわりと舞い上がってゆく
素足にのこる確かな葉の感触と
地平線まで続くたんぽぽの草原
そのすぐ上はもう宇宙だ
綿毛はどんどんと舞い上がり
はるか頭上で渦をまく
見とれながらぼくは
もうひとつの懐かしい家に

ぼくは還ってゆく
くれないに燃え、骨になり、芽吹く
渦をまいたたんぽぽの綿毛のように
螺旋を描き、遠ざかる八月を
まぶしく見送りながら

あの夏にこしらえたぼくの秘密基地には
今でもぼくの骨が埋まっている
たくさんの便箋が隅に重ねられて
伝えられなかった言葉が
あたらしい八月がくるのを
しづかに待っている



自由詩 螺旋 Copyright ワタナベ 2007-09-14 05:35:57
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