東京
草野春心

  東京は寂しい街ねと あなたは笑う
  その横で繰り返し相槌を打つ 機械が僕

(ここは陸橋の下の小さな公園で)
(ふたりだけで)




  遠い日の忘れ物に あなたは愛おしそうに指をすべらす
  今この瞬間の重大さすら 僕は測りかねている

(過去も今も未来も……ビル風に砕かれ)
(気づかないうちに……アスファルトの一部になる)




  あなたが目を閉じると そこから居なくなるのでしょう
  僕は変わらずここに居る あらゆる距離を一度に天秤にかけて

(誰も逃げおおせることは出来ない……都市から)
(そこに潜む圧倒的多数の悪意と善意から)




  故郷の海のことを話している あなた
  あなたのことだけ考えている 僕

(都市は海だ)
(そして人は難破船……誰からも望まれない)




  かけがえのないあなたのことば
  不安定で多義的な僕の心

(月に飛んだのはロケットとアームストロングだけじゃない)
(もっと……取り戻せないもの 引き返せない道)




  東京は寂しい街ねと あなたは笑う
  僕は……今 あなたの左手にふれる

(それでも都市は人を守る)
(都市の血とは けして鉄道網なんかじゃないのだから)




  あなたに
  僕はふれる




自由詩 東京 Copyright 草野春心 2007-09-10 09:17:31
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