大切なトモダチ
atsuchan69

勢いベンツのSクラスで
裏通りのちっぽけなパーキングへ
恥も外聞もなく突っ込んだ
そこに無人契約機「むしん君」がある

「むしん君」は大切なトモダチだ、
たった今も20万円を引き出した
――いや、借りたんだっけ?
とにかく親兄弟よりも当てになる

 (返済能力はまったくないが

俺は上っ面だけ金持ちだから、
いつだって言葉の端々に正しい発音の
[a]と[i]と[u]と[e]と[o]
加えてやたら修飾語とシンボリックな記号――
「マラルメ」だの「イェイツ」等の名詞を散りばめるが、
まるきし田舎育ちの無学な彼女は
イェイツが黄金の暁教団の結社員であったことや
ヴェルレーヌとアルチュール・ランボーがホモだったことも
カルティエの トリニティリングをコクトーがデザインしたってことも
atsuchan69が宇宙人だってことすら何も知らない

デリダのディコンストラクションをなぞって
ラブホテルで彼女に偉大なる資本主義の奥儀を説いた
じつは強靭なキャピタル(柱)を支えるのは
神殿の屋根の多大な負荷であると・・・・
つまり僕にはもうこれ以上、金を借りることができない
しかし君なら現実の社会的構成を基礎に可能である

そこで君は「むしん君」で金を借りる、
借りたら派手にパーッと使っちまう
でも気にしない、気にしない
ぜんぜん大丈夫。

君はまた別の誰かに社会的相互作用を働きかけるのだ

こうして果てしなくファンドの生き血を吸いあえば、
いつしか我ら吸血鬼たちの理想国家が誕生する
皆で集めた金でそっくり国ごと買っちまおう
するとアラ不思議、もはや個人の借金なんて存在しない

だから「むしん君」は、とても大切なトモダチです









未詩・独白 大切なトモダチ Copyright atsuchan69 2007-09-05 22:10:42
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