名もなき夏の島にて ★
atsuchan69

真下に拡がる海原は
厳しく削られた岩の入江を包み、
とうに半世紀を過ぎた
今しも汽笛の鳴る港へと
煌めく漣(さざなみ)を寄せて

夏の賑わいが恋人達とともに
古い桟橋を大きく揺らして訪れる
そろって日に焼けた肌や
水着姿の往きかう坂道だの

あの日、キスばかりして
砂浜に忘れた浮輪とパラソル

燥(はしゃ)ぐ声を砂に埋め、
渇いた唇で忙しく即興の台詞をならべた
渚に残したいくつかの記憶は
失くしても、きっと悔やみなどしなかった

白いペンキの眩しくかがやく
樹々に隠れた丘の家で
時折、海を眺めて沈黙した
夕凪の吹くテラスの粗末なテーブルに
君が仲直りのカクテルを運ぶと
ふたたび口論をはじめて・・・・

「いつかまた逢いましょう
化粧をする鏡の中で
別れ際にそう云ったから、
君が立ち去った後も
ずっと僕は此処に留まったんだ

そのうち俄(にわか)漁師でも演じて
博打で船を一艘ぶん捕れば
ようやく君を忘れてもよい頃だと思った
時化(しけ)の夜に船を出し、
やがて大波をかぶり海の藻屑と消え‥‥

――つづきを話そう、

強い風に鳥たちが流されてゆく
気紛れな海は忽ちにして豹変した
岩場に叩きつけられた白波が砕け、
それは遥かに人の背よりも高い

僕は一羽の海猫に生まれかわり
今日も必死で、この辺りを飛んでいる











自由詩 名もなき夏の島にて ★ Copyright atsuchan69 2007-08-27 22:08:35
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