中華食堂
服部 剛

銀座の路地裏に入ると 
色褪せた赤い暖簾のれんに 
四文字の 
「 中 華 食 堂 」 
がビル風にゆれていた 

( がらら ) 

曇りガラスの戸を開くと 
「 イラッシャイマセ 」 
うしろ髪を一つに束ねた中国娘の店員が 
ぼくを迎える 

胡弓こきゅうの涼しい音色が
流れる店内の
隅っこのテーブルに腰を下ろし 
メニューを開いていると 
隣のテーブルでは 
ネクタイを緩めたサラリーマンに出す 
メニューを間違えた中国娘は 
しきりに頭を下げていた 

少ししてから 
持ってきたタンタン麺を
僕のテーブルに置いた時 
中国娘の手はすべり 
ましろい頬を赤らめた  

器の下のおぼんには 
こぼれた汁とねぎの残骸 
ぼくは器を横にずらし 
汚れを隠しすました顔で 
ぴりりと辛い麺をすすった 

( がらら ) 

親元を遠く離れた 
異国の地で働く中国娘の 
「 イラッシャイマセ 」 
を耳にしながら 





自由詩 中華食堂 Copyright 服部 剛 2007-08-31 20:38:09
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