ホームレスの箱の中
なかがわひろか

橋の上で頭を垂れて
道行く人に小さな段ボール箱を差し出している
一人の老婆に

あなたはさっと歩み寄り
その汚い箱の中に
箱よりも小さな希望を入れました

何の重さもないそれに
頭を垂れた老婆は
気づくこともなく
ずっと地面を見ているまま

あなたは一つ何かをつぶやいて
それはどこかの国のおまじないのようで
そっとその場を立ち去りました

一日中頭を垂れ続けた老婆は
夜になって
人通りが減った頃に
やっと箱の中をのぞき込みました

老婆には
何も見つけることはできませんでした
そこには小さな希望があったのに
あなたが入れた小さな希望があったのに

空っぽの段ボール箱を
大事に抱え
老婆はその場所で眠りにつきました

見えない希望を抱えたままで

重さのない希望を抱えたままで

(「ホームレスの箱の中」)


自由詩 ホームレスの箱の中 Copyright なかがわひろか 2007-08-25 02:55:50
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