「普通に生きていくのって思ったよりも難しいんだね」
ほんとうのまる、ほんとうの直線は、
人の手には描けないんだよ
太陽が揺らいで溶けそうになっている
輪郭線をごまかしている
ほんとうのまるを隠して

大人を外から見ていたときは知らなかった
日常がこんなにもエキサイティングで切ないということ
毎日吐く息の中に、わたし、いのちを込めている
からだからいのちが
少しずつ減っていくのを穏やかな気持ちで眺めている
変わらないものがひとつもなくてよかったって

ここは敷かれたレールの上じゃない
宙を凛と張るいっぽん綱の上だ

高校生の制服の白が眩しくて
失神したい
と誰にも秘密で思う

蝉の命は色濃くて
誰も疑ったりしない、夏の交差点で
わたしは
たったいま
失神したい