落ちない太陽から、逃げる
水町綜助

また、
また遡行していく

太陽が落ちない
360度の
上空を
周り続けていたような毎日
そんなころ
僕たちは
向日葵で
飽きもせず
追った

めくるめく
夏の息づかい
あらく
水蒸気を含んだ
西日の中の熱風
そのうずまきの中に
蝉の七年とか
コガネムシの羽とかを
瑠璃色にまきこんで
すりつぶすから
僕たちは吸い込んでいく
そんなふうにして
あまい季節を


やあ

久しぶり
あの店
もう無くなったんだってさ
ポカンと口を開けてしまうくらい
のう天気な名前のあの店
交差点の角の
おまえの部屋の
ちかくの
でも夏、おまえと行ったことはなかったね
たしか
あのときは
秋か
じゃなかったら冬だったわ
でもどうしてか
真夏に
歩いた気はする
緑地に沿って敷かれた
ちいさな長い道路を
じりじりとするなか
とぼとぼ
てをつないで
ただジュースでも買いに

つめたさとか
水滴とか
汗とか
夜がくることとか
暑さの中にゆらめいたからだで
望んで
全部きりきりしたドロップみたいに固めて
それから奥歯で噛んで
こなごなに砕けるのが綺麗だから
破裂を空想して
だけど壊すのは怖くて
いやだから
手に持ってれば
そりゃあ溶けるわ

べたついて
今日も暑い
お盆には帰省した?
してないなら
帰るといいよ
日陰でゆっくりするといい
なんでなら
追っかけていた太陽は
一瞬で俺なんかを消す
あたりまえだけど
これだけ離れた場所でさえ
俺たちの肌を焼いて
茜色に焼いて
逸らさずに見つめれば
白く失明する
なんかを失う気がするんだ
あれを追うと

だから俺は逃げることにしたよ
根を生やして
向日葵なんかにならないで

きれいすぎるから
みつめつづけると
うごけなくなるから
太陽が
ころすから

だから
逃げる
影を追って
季節を走る
とても速く
とても速く



自由詩 落ちない太陽から、逃げる Copyright 水町綜助 2007-08-22 02:32:56
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